前の記事で、「OJTが企業の競争力、成長力に差をもたらす」と書きました。
複数の教育手段の中でも、確実に企業の力となっていると思われるのは、やはりOJTだと感じます。実際の企業事例をご紹介しましょう。

ある企業でベテランの営業担当者の研修をお引き受けしたことがあります。その会社は、ある市場で、トップクラスのポジションを維持していました。
ライバルは有名企業の子会社の1事業部門です。後発で参入してきた相手ですが、ここ数年で追い上げられ、自社も業績を伸ばしてはいましたが、トップの座を明け渡してしまいました。

研修の事前打ち合わせでその企業の営業本部長からヒアリングする機会があり、そこで伺った話が非常に印象的でした。

「うちは商品力やサービスではナンバーワンだし、この業界での知名度も決して負けてないんです。ところが相手は、つい数年前に新入社員ですといって挨拶を 受けた営業が、数年経つといっぱしの営業になっている。うちだと5年、10年かかって育てている営業のレベルに、向こうは2、3年で育ってしまっているんです」

「もともと、うちは営業の会社だと言ってきたんですが、今では営業で仕事を取られてしまっている。採用する人材に差があるのかなと思ったんですが、大学名だけ比べたらうちのほうがいいくらいなんです。
だったら、何か充実した研修でもやっているのかと聞いてみても、研修を受けたのは新入社員の時くらいだと言っている」

「向こうは営業を育てるノウハウを持っているか、育つ雰囲気があるんだとしか思えない。
うちも昔から育てろ、育てろと言ってきたので、わかっているとは思うんだが、見ていると厳しくしかりつけているだけで、育て方も、何をどう教えるかもわかってない。考えてみると、私も営業会議でしかりつけるだけで、そういったことは会社として何も教えてこなかった。
うちもこのままじゃいけないし、まずは自分たちの勉強からと思って研修をお願いしたんです」

実際にライバル企業の親会社は、メーカーではありましたが営業担当者のOJTではときどき話題に出てくる企業でした。
子会社のライバル企業がそのOJTのノウハウをどの程度引き継いでいるかはわかりませんが、この営業本部長が実感したことはあながち外れてはいないようでした。
だとすれば、業界地位が逆転してしまった要因の1つが現場の人材育成力の差だといえそうですが、それに気づいてもすぐには真似できないのがこの差だと思える事例でした。

★詳しくは、OJTの理論&手法「業界内でのポジションが逆転する」